鼠の騙し討ち

太刀打できますん

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俺こと木藤リュウヤにとって、穏やかに日常を送る事こそが、この先死ぬまでの最大の目的なのだ。

「そういえば、先輩って明日のお祭りとか行くんですか?」
ぼんやりとバイト先ではない方のファミレスで飯を突いていたら、対面に座る、セミロングの傷んだ茶髪と八重歯がチャームポイントの後輩からそんなことを聞かれた。
「祭りかぁ・・・」晩飯のカルボナーラをフォークで巻きつつ「興味ないなぁ。つか酒も入ってないのに賑やかなのが駄目。駄目なんだよな~。五月蝿いの苦手だし」
「じゃあ酒飲んで行けば良いじゃないですか。私思うんですけど、先輩はバイトに来るまでにワンカップを飲んでくるべきですよ。普段つまらないのにお酒入ると途端にはっちゃけますもんね。そっちの方が面白いから、やっぱ常にワンカップを煽ってるべきですよ」
「無茶言うなって。そんなんじゃ仕事にならんだろうが。いいかお前? お前がフロアに出てるとき、客の目とか気にせず呑みながら野次ってやるよ」
「タチ悪~。最悪」ケタケタと笑い「けど面白そうだから一度やってみてくださいよ。もう来なくていい、って言われる姿を写メに納めますから」
「お前の方がタチ悪くね?」

今のバイトを始めたのが3ヶ月前。彼女、三条要はその一ヶ月後に同じバイトに入った。大学の夏休みを利用して遊びまわるはずだったこの能天気さんは、軍資金が付きかけている事に気がついて8月一杯はバイトに精を出し、翌月、バイトを細々こなしつつ遊び呆け、9月の最終週に終わる夏休みを満喫しようと言う算段だ。

「そういや」普段なら会話を打ち切って目の前の飯に没頭するのだが、やっぱり酒入ってた方が面白い、といわれることを嫌った俺は「要は祭りに行くの?」と話題を広げることにした。
「そうなんですよっ!!」聞いて欲しかったと言わんばかりの勢いで彼女は声に力を込めた「それがもう信じられなくて!!」
店を、いや天を仰ぐ大仰な仕草で彼女は憤っていた。何が彼女をそうまでさせるのか、正直興味は無かった。
「友達とか誘ってみても、みんな彼氏持ちで、みんな彼氏と行くとか言ってるんですよっ! 彼氏居ない子も兄弟と行くとかいってるし、私一人っ子だから兄弟も誘えないー、ああーもうつまんないっ!!」
「そっか、残念だったな。それより昨日のテレビ見た? めちゃ笑えるんだけどさ・・・」
話題を打ち切ることにした。
「そこで先輩っ!!」
しかしまわりこまれた。
「いっしょに・・・」ここでテーブルの端に両手を乗せて僅かばかり身を乗り出し上目遣い「お祭り行きません?」ここで首を少し傾げる。
確信犯的な―――流行や世間ズレと言うある種のカルト的要素をふんだんに使い、男を惑わすと言う犯罪も正しいと思い込みやってのける―――仕草で聞かれれば、それはもうこちらに拒否権なぞ存在せず
「別に・・・いいけど」と首を縦に振るほか無かったのだった。
「よかったぁ。一人じゃ寂しかったんですよぉ」ここにまた、新しい咎人が誕生した。
祭りには興味ないけど、女の子には興味あるんです。だって涙が出ちゃう。男の子だもん。

奢らされる・・・奢らされるだけだろうなぁ・・・
分かりきっちゃいるんだけどさぁ、男だったらやらなきゃ行けない時があるじゃん? ほら釣り糸に付いた餌だと分かっていても、食いつきたくなるのが本能じゃん? 釣られちゃっても餌は食べる事が出来るなら、それでいいじゃん?
なんだか惨めになってきた。
「私、浴衣着ていきますよ。浴衣。先輩も着てきてくださいよ~」
「いいって」誘われて嬉しい事が表情に出ているかもしれないので、俯いて残った飯を突きながら「そこまでするもんじゃないだろ。っていうかさ、祭りで浴衣姿とか見ると、風情があるなぁって思うよりもまず、はしゃぎすぎだからって目で見ちゃうんだよなぁ」
「そんな捻くれた生き方で楽しいわけ? 斜に構えてるのがカッコいいとでも思ってるのかくだらない。さっさと死ねよ人殺し」

ビクリ、と反射的に顔を上げてしまった。
狼狽しきった俺の顔を見て、要の奴が訝しんでいる。
しまった、油断しきっていた。ファミレスの通路では、真夏にも関わらず厚手のコートを着た中年の男性がこちらをニヤニヤしながら眺めている。

「おっと、悪かった」そいつの声は俺にしか聞こえていない「あんまりにも楽しそうに喋っていたから、ついつい口を出してしまった。お前がそんなことで喜んでていい人間じゃないって、忘れてそうだったからな」

「どうしたんです? 先輩」
心配したような、それでいて自分の身の危険を察知したかのような脅えた声を出す後輩に、お茶を濁す事しか出来なかった。
「やっべ、約束忘れてた。これからちょっと用事あるんだわ。行ってくる」テーブルに置かれた伝票をひったくり「ああ、祭りん時の待ち合わせとか後でメールすっから」

慌てて店を出て、そのまま家路へと走る。その間も中年の声は聞こえ続け、どんどんとその声量は増していく。喋っている内容も、どれだけ俺が駄目なヤツかを懇切丁寧に罵詈雑言と皮肉を交えた笑顔で、俺を壊しにかかってる。頭が割れそうだ。

こんな時、俺は然るべき処置を施してくれる病院に行くべきなんじゃないかと思うのだが、これが俺にとっての今の在り方なのだから、それを変えることは出来そうに無い。

家に帰るとすぐに市販の睡眠薬をビールで煽って布団に潜り込み意識を手放そうとするが、それでもヤツの怨鎖の言霊は俺を離すまいと絡み付いてくる。冷房は最大の筈なのに汗が止まらず気持ち悪い。
一晩中そんな声を聞き続けたせいか、昼前になって、ようやく眠りにつけた。


目が覚めると、ヤツは消えてなくなっており、ようやく心落ち着ける時間を取り戻した俺はふと携帯を見て凍りついた。

―――6時に林檜広場前で待ってまーす。
                   要

時計を見ると既に5時40分を回っていた。焦るほどの元気も出てこないが、急がなくてはならないのは明白だ。
急いで身支度を整え風呂に入りたいという欲求を押さえ込み走り出す。自転車か原付くらいは欲しいと思う今日この頃。
汗臭くても、遅れないため走ってきたからだと言い訳するために、遅れるかもしれないとは言わなかった。

広場の前に着くと、浴衣姿の要を見つけた。時間は6時を1分過ぎている。それよりも、彼女が本当に浴衣を着ているということについては、神様ありがとう、と言う他無いと思うわけだ。浴衣万歳。あと、遠目からじゃ彼女の八重歯は見ることが出来ない。俺は、要が笑ったときに覗く八重歯が気に入っており、彼女が歯医者に行き八重歯を抜いてみないかと進められた、という事を伝えられた時、迷わず「八重歯があるほうが可愛いと思うぞ」と素で言ってしまい、さんざんからかわれた事がある。それくらい可愛いんだって。まじでまじで。

そして、ようやく彼女の方も近づいてくる俺に気がつき、彼女も俺のほうへと歩き出した。

「センパーイ。時間ピッタリですねー。っていうか、メール一通もよこさないってどういうことですかー!」

ピタリと足が止まる。違和感。掛け違えたボタン。いつもとは違う銘柄の煙草。利き手とは逆の手で持つ箸。どうしようもないほどの違和感。
気持ち悪い。在るべき場所に在るべきイメージが無い。かけ離れている。



「・・・誰だよ、お前」

そこには、三条要と瓜二つの顔と声をした違う誰かが立っていた。




<雑記>
続きがあることには、私の方が驚きです。

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